賃貸経営の基礎知識

第1回 建物の「安全性」が価値を産み,「危険性」がリスクをもたらす時代

弁護士:今村 健志氏(日本橋フォーラム綜合法律事務所)

旧耐震基準から新耐震基準へ

東日本大震災以降,建物が旧耐震基準,新耐震基準の何れで建てたのか,改めて注目されてきています。
耐震基準が改正されたのが1981年ですので,それ以前に建てられたものが旧耐震基準建物で,それ以降に建てられたものが新耐震基準建物です。
この旧耐震基準建物か,新基準建物かを,喫緊の課題として改めて認識させたのが,1995年に起こった阪神淡路大震災です。同地震での死者数6400人のうちの8割弱が建物倒壊等による圧迫死で,その倒壊した建物のうち約9割が古い木造建物であったからです。
この事態を受け,改めて旧基準建物の危険性が意識され,建物の耐震化を誘導する耐震改修促進法が制定されました。

建物耐震性の資産価値への影響

耐震改修促進法は,旧基準建物の新基準建物への建替・補強を法的に強制するものではありません。しかし,同法制定に伴って行われた宅地建物取引業法規則の改正で,耐震診断を実施した時は,その内容を,賃貸・売却する際説明することになりました。大震災を契機に,不動産市場が建物の安全性に,より高い価値(例えば高い賃料が取れる)を置くようになったのです。

地震による建物倒壊で賃借人が死傷した場合の家主の責任

一方で地震は,家主の建物の危険性に対する責任を顕在化しました。
民法717条は,建物の「設置又は保存」に瑕疵があって第3者に損害を与えた時,建物所有者は責任を負うとしています。「設置に瑕疵」とは建物の「建て方に瑕疵」があり,「保存に瑕疵」とは建物の「維持に瑕疵」がある場合のことです。
ただ,旧基準建物だからというだけで,借家人の建物倒壊による死傷に家主が責任を負わされることはありません。旧基準建物も,建てた当時は法律に従って建てたのですから,「建て方に瑕疵」があるわけではないからです。しかし,旧基準時代に建てたが,その旧基準すら充たしていない建物であった場合,「建て方に瑕疵」があったとして,家主が借家人の死傷に責任を負わされる場合もあります。また旧基準に従って建てたが,耐震性を減じさせるような改築をしていた場合,「保存に瑕疵」があるとして家主は責任を負う場合もあります。古い木造アパートの場合,この「設置・保存」に瑕疵がある場合が少なくありません。

家主として考えること

東日本大震災は,「建物の安全性」が家主に価値をもたらす一方で,「建物の危険性」が場合によってはリスクをもたらすことを,改めて認識させたのかもしれません。

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